2017-07-17 自分の手でつかまなくちゃならない
そのころ、レースを終えたカズとキヨシはコースのそとにバイクを停めて話していた。結果は言うまでもなく、カズの惨敗だった。
悔しかったが、カズはこんなすがすがしい気分になれたのは久しぶりだった。カズがキヨシに言った。
「おまえ、速いな………レーサー目指してるんだって?」
キヨシが苦笑した。
「まわりにはよく、雲をつかむような話だって言われるよ……オレの家は金持ちじゃないから、いいバイクもいい環境もこれから自分の手でつかまなくちゃならないよ……」
「まあ、家が貧乏なのはオレもおなじだな……」
「でも、まだまだ練習しないとな……いくら練習してもイメージどおりにできないときもある……そんなとき、オレなにやってるんだろうって思うよ……自分の信じた道を進むのがこわくなったりしてさ……自分の心のどこかにぽっかり穴があいたような気持ちになるんだ……」
ふいにカズが芝生に寝転んだ。月が見える。
「……いっしょに夢見るヤツがいれば、だいぶちがうんじゃねえか?」
「?」
「走るのが好きなヤツはひとりじゃねえよ……そのためのチームなんだ。どうだ、いっしょにやんねえか?」
「カズ…」
そのとき、教習所のライトがいっせいに点灯した!
「なんだ?!」
ライトを背に見知らぬ男が立っている。